成長に合わせて接し方を変える「シチュエーショナル・リーダーシップ理論(SL理論)」

TIPS

部下や後輩と接する際、状況に応じた対応を取る必要があります。具体的な指示のみでは、成長スピードは遅くなり、いつまでも自立・自走することができません。一方で、抽象的な指示のみだったり、ヒントを与えたりといったサポートのみでは、そもそも歩き出すことができません。

シチュエーショナル・リーダーシップ理論(SL理論)は、場面に応じた接し方を体系化した理論です。行動科学者のハーシーと組織心理学者のブランチャードによって提唱されました。

本記事は、上司・先輩という立場にあたる人に向けた記事ではありますが、部下・後輩という立場にあたる人にとっても有用な内容です。自身の辿るステップを整理し、上司や先輩の意向を汲み取る手助けになります。

シチュエーショナル・リーダーシップ理論(SL理論)

シチュエーショナル・リーダーシップ理論(SL理論)は、部下や後輩への接し方について、絶対の正解がないという前提のもと、状況に応じて接し方を変えていくリーダーシップの型です。「S1」からスタートし、成長に合わせて「S4」へ移っていきます。

それぞれのリーダーシップの在り方とシチュエーションを見ていきましょう。

S1:指示型

経験の乏しい新入社員や異動したばかりで知識が少ない段階での接し方です。何をしたら良いかを具体的にしっかりと示します。経験や知識が少ない中では、構造的な理解が難しく、1人での判断が困難です。一定の経験・知識を取得するまでは、明確な指示のもとで行動をしてもらうようにします。

S2:コーチ型

業務に少し慣れ、1人でできる範囲が増えてきた段階での接し方です。過去に経験している業務や類似した業務であれば、具体定期な指示を少し減らし、抽象化した指示を与えながら、自分で考えることを促進していきます。上司や先輩による一方的な指示を受けて行動するだけでなく、上司や先輩と議論をする、意見交換するといった場面も増やしていきます。

S3:援助型

一定の知識・経験が身につき、ルーティンの業務でない非定型業務(イレギュラーな業務)にも対応できるようになってきている段階での接し方です。上司や先輩は、方向性・方針を示すことに留め、具体的な指示を控えるようにしていきます。部下や後輩が、自ら意思決定できるよう仕向けていきます。

S4:委任型

知識・経験が十分に身につき、権限委譲を大いに行う段階です。可能な限り、部下や後輩が1人で業務を遂行させるよう見守ります。その分野においては、他のチームのメンバーに対してもリーダーシップを発揮するように促していきます。特定の分野でリーダーシップを発揮することは、将来的に管理者として事業全体を管理・推進していくためのトレーニングにもなります。

各フェーズで発生する問題

成長を望まない部下・後輩

成長意欲の高いメンバーに対しては、各フェーズへの移行がとてもスムーズです。また、成長意欲が高く自責の念が強いメンバーほど、接し方を多少間違えていたとしても大きな問題にはなりにくく、接し方を素早く切り替えることでリカバリーが可能です。一方で成長意欲が低く他責の念が強いメンバーほど、上手くいかなかった場合に「上司・先輩の対応が悪かった」という判断をする傾向があり、大きな溝を作りやすくなります。

よりスムーズな育成に取り組むには、上司や先輩は、ただただ指示やサポートの方法を変えていくだけでなく、成長意欲を刺激するような接し方も必要になっていきます。成長を望まない部下や後輩は一定数いますが、組織を強化していくためには、各メンバーの成長が不可欠です。

判断をしたくない部下・後輩

成長意欲や経験値の有無に関わらず、自分での判断を嫌うメンバーは多数います。S2、S3の段階にいるにも関わらず、S1のシチュエーションに留まりたいと希望するメンバーです。

判断や決断には意外と労力がかかります。状況を理解し、判断後の結果を予想するという作業はとても疲れます。また、判断するということは責任を負うということでもあります。自覚なく、無意識に、責任を負うことを嫌うメンバーもいます。

こういったメンバーには、「判断をする」ということを実践していくようサポートが必要です。メンバー自身、十分な知識と経験があることを知ってもらうこと、自ら決断するように会話や質問を展開していくこと、失敗しても大丈夫と伝えてあげること等、適切なフォローが必要になります。

判断をしたがる部下・後輩

自分自身で判断することを避けるメンバーがいる一方で、知識や経験が未熟な状態でも積極的に判断をしたがるメンバーもいます。こういったメンバーには、自身の知識や経験がまだ不十分であることを伝える、指揮命令系統を伝える、意思決定のルールを決定して伝える等、厳格な対応が必要な場面もあります。

ただし、本人が納得できない場合は、上司や先輩への不満が積もり、最悪の場合は離職へと繋がる場合があります。実力を示して尊敬を得ること、論理的な説明をすること、時には雑談を交えて信頼関係をつくることが大切です。

どんなことでもS4から入る、丸投げタイプの上司・先輩

どのような場面でも常に、指示なし・サポートなしの上司・先輩です。部下や後輩の育成に関心がない、あるいは、新人だった頃の感覚がわからないパターンです。上司・先輩が忙し過ぎでフォローできないという場合や丸投げすることが最も正しいと信じている場合もあります。

完全放置で順調に育つメンバーもいますが、多くの部下・後輩は、自走する人材になるには育成と向き合う必要があります。

S1から抜け出せない上司・先輩

丸投げタイプとは逆で、上司・先輩がS1(指示型)から抜け出せない形です。部下や後輩への愛情が強すぎる故に、丁寧なフォローをしたい気持ちが先行してしまうパターンです。子離れできない親のようなものです。S2、S3の段階では、具体的指示を欲しているがあえて与えない等、ライオンが子供を谷に落とすような非情さも必要です。考え、判断する機会をなくすことは、成長の機会を奪うことにもなります。

部下や後輩の能力を低く見積もり過ぎている場合や、部下が判断のための考える時間を待てない場合もあります。失敗することを許せない上司・先輩もいます。メンバーの育成には、忍耐力と許容する器がとても大事です。

どの場面でどの接し方をするかに、正解はない

経験と知識の量を明確に測定することは難しく、「このメンバーは現在、S2の段階にいる」といった形で客観的に定義することは不可能です。また、経験と知識だけでなく、性格やモチベーションも影響するため、どの型で対応するべきかは常に判断が必要です。

一般的に、大企業では各フェーズでの滞在時間が長く、ベンチャー企業では短くなります。部下・後輩にかかるストレスの量は大企業では少なくなりますが、ベンチャー企業ではとても大きくなる変わりに、成長スピードは速くなります。ストレスと成長スピードはある程度比例します。

つまり、適切な接し方は、メンバーの経験・知識の量、性格、モチベシーションに加えて、企業の体質や組織の状態によっても変わってきます。

接し方に正解はないので、常に状況を見て判断していきましょう。